「遠い椿」 公事宿事件書留帳

 

今、時代小説を読んでいます。

澤田ふじ子さん作の「公事宿(くじやど)事件書留帳」といって、京都が舞台です。

公事宿とは、上京してくる人たちを宿泊させ、民事の訴えを聞いて奉行所でのお裁きの際、弁護をする宿屋というのでしょうか?・・・

捕物帳で京都が舞台って、珍しいでしょう?

だいぶ以前にNHKTVのドラマだったんです。

小説より先にドラマを観たので、私にとって、登場人物はの顔は、みんな俳優さんの顔です。

その点は、大先輩の「御宿かわせみ」も同じ。

 

京都といえば、私の憧れの地です。

行きたい行きたいと思っているうちに、とうとう行けなくなりました。

瀬戸内寂聴さんの紀行エッセイ「嵯峨野みち」などを読んでは、ため息をついています。

たまたま今日読んでいた第十七冊目の中の一話、「遠い椿」は、上嵯峨村から三日に一度、洛中に、青物(野菜)を売りにやってくる若い娘を心配する、大店(おおだな)のご隠居さんの話です。

私は、固形物は食べられませんし、野菜も食べられません。

そのため、青物、と聞くと、生唾が湧きます。

このSNSにも、野菜がコードネームの方がいらして、お名前を見るたび、困ります。

その方に、罪はありませんが・・・

 

ともかく、洛中まで野菜を売りに来る娘の嵯峨野の自宅までの帰りを、ご隠居さんは、ずいぶん心配します。

なぜ、そんなに心配するのか?が、この話のかなめです。

・・・

上嵯峨村から京にやってくるには、嵯峨野の大沢池の南をへて、山越道(やまこしみち)、宇多野村、福王子村をたどる。次に、仁和寺の大きな四脚門の前を通り、南に妙心寺、北に妙心寺墓地をのぞむ街道をたどり、大将軍村に着く。そこから紙屋川の橋と、豊臣秀吉が築いたお土居を見て、洛中に入るのであった。

・・・

集団で来た娘さんたちは、夕刻の帰り、ばらばらで帰ります。

それが怖いんですよね。

山越道(千代の古道)(ちよのこみち)って、名前は優雅ですが、藪の中の路らしいんです。

年頃の娘さんたちですし、季節によっては、帰り路は暗くなります。

無頼の人達も、山道にはいます。

大店(おおだな)のご隠居さんには、昔、添い遂げられないまま、生き別れた恋人がいます。

その青物売りの娘、お杉に、その恋人の面影が濃くあるのです。

ご隠居さんは、とうとう、その娘に用心棒をつけることにしました。

大枚、月十両をはたいてです。

 

その用心棒に選ばれたのが、公事宿「鯉屋」の居候である主人公、菊太郎です。

菊太郎は、れっきとした京都町奉行所同心の息子なのですが、ゆえ合って、父の後を継がなかったのです。

自由人として生きています。

大変な捕物名人ですので、奉行所からも、居候先の公事宿からも大切にされ、頼りにされています。

さまざまな相談事も、菊太郎のところには、持ちこまれてきます。

 

このシリーズは、そのさまざまな物語を取り上げます。

菊太郎の人柄もあり、どちらかというと癒し系の捕物話でしょうか?

それはそうと、この娘さんの歩く道は、私の好きな寂聴さんが、エッセーに書いていらっしゃる、嵯峨野の愛宕道です。

嵯峨野に行くことのできない私には、考えると胸が切なくなる憧れの路です。

それもあって、この作品「遠い椿」に引き付けられました。

この捕物帳の時代は、寂聴さんがエッセイに書かれた頃よりずっと前の江戸時代ですが。

今は、この路、どうなっているんでしょうね。

さて、このお話、どういう結末を迎えますか?

 

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