ロンドンの人々

 イギリスに行って来ました。自分の足で歩いてみて、感じたことはいろいろあります。ここでは、ロンドンで働いている人たちについてお話ししましょう。

 ロンドンは国際都市です。いろいろな国から来た人たちが、いろいろなところで働いています。フィリピンから来たウェイトレスさん。皮膚の色の黒い、スーパーの店員さん。インド人らしいバスの車掌さん。日本人によく似ている、中国人のボーイさん。それに、ヨーロッパの国々から来ている人たちもいます。

 ある日、私は、ランチをとるために、一軒のイタリア料理店に入りました。観葉植物が、そこここに置いてあり、しゃれた籐のいすに、テーブルがあります。冷房こそ入っていませんが、とても暑い日の続いているロンドンでは、ほっと息のつける店でした。その店のウェイターさんのことが、印象に残りました。

 イタリア人らしい黒い髪の持ち主です。年齢は、二十歳そこそこ位でしょうか。中肉中背、白いシャツに黒いズボンを身につけています。私が店に入ったのを皮切りに、次々と5〜6組のお客様が入ってきて、そう広くない店は混んできました。でも、お店の人は、その青年一人です。彼の活躍が始まりました。

 テーブルについた人々に、挨拶をし、注文をとり、素早く、調理場に連絡します。料理ができるまでに、ほかのお客さんの注文をとり、階下の調理場から届いた料理は、お盆にのせて、テーブルへ。ほかのお客さんのそばを通りながら、必ず、「お待たせしてすみません。」と声をかけます。順繰りに注文をとり、テーブルまで運び、食べ終えた人のところには、もうすんだか聞きに行き、お皿をかたづけると、お勘定書きを小皿にのせて、テーブルへ。支払われたお金は、勘定書きと一緒にレジまで持って行き、おつりをのせて、またテーブルに戻します。くるくると動き回り、見ていて小気味の良い働きぶりでした。

 食後に注文したコーヒーは、私の好みよりちょっぴり苦かったけれど、シーフード・スパゲティーの味も良かったし、ウェイターさんのおかげで、私の心の中の“ミシュラン”では、このお店は、三ツ星級位になりました。この青年の若さと活きの良さが、少しでも長く続きますようにと祈ったことでした。

 外国から来て、ロンドンで働いている人たちの中には、このウェイターさんのように元気よく働いている人もいましたが、仕事に疲れているのでしょうか、意地の悪い態度をとる人もいました。この人たちは、あまり待遇などで恵まれていないのかもしれません。それに、生まれ育った国の風土と、ロンドンの生活環境が違いすぎるのかもしれません。

 さまざまなところで働いているイギリスの人(だと思うのですが)たちも見ました。老舗の書店“Dillons”の店員さんたちの、自分たちの仕事に、自信と誇りを持って、きびきびと働いている様子には、好感が持てました。また、“ハロッズ”の書籍部の店員さんたちの、誠実な態度も気持ちよく思えました。

 最後に、イギリスのウェイターさんの接客振りのことを言っておきます。少し名のある店や、風格のある店のウェイターさんたちは、実に気持ちの良い応対をします。静かで、常に微笑(ほほえみ)を浮かべ、さりげなく声をかけ、こちらの希望をのみこんで、欲求を満たしてくれます。ていねいに扱ってくれるので、まるで、貴族になったような気がすると言ったら、ちょっと大げさかもしれませんが・・・

 ともかく、今に残る、“大英帝国”の伝統の良い面を見たような気がしました。  

 短い旅行でしたが、表面的とは言え、いろいろなことを体験しました。何年か先には、また出かけて、イギリスが変わっているかどうか、見てこようと思っています。

(この文章は、以前、ある会社に勤めていた頃、社内報に載せたものです。)

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