私のお洒落開眼

‐ きっかけは一枚のTシャツ ‐

母は、お洒落な人で、私が着るものは、子供のころから、中年になるまで、ずっと母が選んでくれていた。
そのせいだろう、私は、お洒落が苦手だった。
青春時代も、お洒落とは無縁。
大学には、制服があったし、あまり出歩かない方だったので、服装のことは考えないですんだ。
勤めるようになってからは、毎日、翌日着ていく服を決めるのが、面倒だった。
制服を着る職場が、うらやましく思えたこともあった。
ずっと後になってから、一時、制服を着ることになり、私服の職場になれたあとだったので、苦痛だった。大げさだと思う人もいるかもしれないが、会社の奴隷になったような気がしたものだ。
母が認知症になってからやっと、自分で着る物を選ぶようになったが、最初は、なかなかうまく行かなかった。
ブラウスが、フェミニン過ぎて、パンツと合わない、などということがしょっちゅうあった。
朗読の仕事をするようになってから、人前に立つことが多くなり、徐々に、お洒落が人並みにできるようになったと思う。
きっかけは、母が最後に、私のために選んでくれた、黄色と黒の横ストライプのTシャツだ。
生徒たちの発表会で、そのシャツの下に、黒い網シャツを着て、ステージに立ったところ、好評だった。
自分でコーディネートした服装をほめられたのは、初めてで、うれしい経験だった。
この時から、お洒落が、楽しみになり始めた。
ところが、今度は、別の悩みが生まれてきた。
どんどん、エスカレートしていくのだ。
もっと、新しい服が欲しくなる。
もっと高価な服が買いたくなる。
シャツも、セーターも、ブラウスも、パンツも、アクセサリーも・・・
あ〜、神様、なんとかして!
これでは、破産してしまう。

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