グリーン・ノウの夏休み

そして扉を開けよう

 今年の夏休みは、読書に夢中になった。読んだのは、ルーシー・M・ボストン作の「グリーン・ノウの物語シリーズ」。

 「グリーン・ノウの子どもたち」から「グリーン・ノウの石」まで6冊ある。一応児童文学のジャンルに入るのだろうが、大人が読んでも素晴らしい。

 書誌学者で作家の林望が英国のケンブリッジ大学で仕事をしていた時、下宿先が、この物語の舞台となった「グリーン・ノウの館」だった。

 館の本当の名前は「ザ・マナー」。林望の大家さんで、物語の作者、ボストン夫人は、当時91才だった。夫人は、このイギリス一古い、と言われる館を購入し、長い時間をかけて改造して、1990年、97歳で亡くなるまで、ここで暮らした。そして60代のころ、この6冊の物語を書き綴った。

 館が建てられた1120年から現代(1950年代〜60年代)までの「グリーン・ノウの館」の年代記とも言えるだろう。ただし、お話は年代順ではないが。

 6冊を通じて、様々な時代を生きる少年少女たちが登場して、友情を温めあう。違う時代を生きる子供たちが交流するので、一種のタイムトラベルものと言えるかもしれない。

 中には不幸せな子どもたちも出てくるが、彼らはこの館に迎え入れられ、館と、ボストン夫人の分身とも思えるオールドノウ夫人との愛情に包まれて幸せになることが出来た。

 シリーズ4作目の「グリーン・ノウのお客様」は、その年に出版された最高の児童文学に与えられるというカーネギー賞を受賞したそうだ。

 この夏、私はこの物語にのめりこんだ。子供のころは食事を忘れる位、読書に熱中したものだが、それ以来と言えるかもしれない。そしてまた、この夏ほど、仕事に復帰するのが嫌だったことはない。そろそろ仕事の納め時かもしれない。これまでいた部屋の扉を閉めて、新しい部屋の扉を開く時が来たのかもしれない。

 

 *上記の文章は、数年前に書いたものです。

「ザ・マナー」は、ケンブリッジ郊外、ヘミングフォードグレイの村にあります。

 

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