私の“お酒”放浪記

 

 若い頃、私は、人と話すのが苦手でした。言葉のキャッチ・ボールができないのです。

 お役所でアルバイトをしていましたが、飲み会に誘われても、なにか口実をもうけては、まっすぐ家に帰ってばかりいました。

 ところが、ある小さな会社に就職して歓迎会の席で、一口飲んだとたん・・・心を縛っていた紐がほどけるような気がしました。舌も滑らかになりました。そして、佐藤さんは、のむと面白くなる、という評判になりました。飲み会に誘われると、嬉々として参加していました。いい人ばかりの会社でした。どんなことを話したのか、まったく覚えていませんが。

 でも、こんな気のいい人ばかりの会社が、厳しい世の中で、うまくやっていける筈がありません。会社は、やがて傾いてしまいました。ほかの社員もそうですが、私も、再就職先を見つけるのに苦労しました。もう中年になっていましたし、これといった特殊技能はありませんでした。

 それからしばらくは、楽しいことなどない日々が続きました。再就職先は小さい会社しかありませんが、小規模の会社には、大企業に勤めている方にはとても想像できないことがいろいろあります。そのため、就職は難航を極めました。

 そして、サラ文に入会しました。飲み会に参加して、びっくり。仕事を離れた趣味の集まりは、こんなに楽しいのか、と思いました。また、お酒が飲めるようになりました。そして、舌が滑らかになりました。佐藤さんは、お酒が入ると面白いとまたいわれるようになりました。そして、数年間、楽しい日々が続いたのですが・・・

 今度は、めまい持ちになったのです。少したくさんお酒を飲むと、めまいっぽくなります。めまい持ちの方は多いので、お分かりになっていただけると思うのですが、めまいっぽい時、歩くのは、本当に怖いです。道を歩いていても怖いですが、電車に乗ってる時、とくにホームを歩く時が、一番怖いです。ホームの端から落ちないだろうか、入ってくる電車に触れてしまわないだろうか・・・

 お医者様からめまいの頓服をいただいて、いつも持ち歩いています。幸い、ひどいめまいには、今のところ襲われていません。

 また、お酒が飲めなくなりました。時々、お酒を、一杯注文して、ちょっとだけなめてみますと、ああ美味しいなあ、と思います。また、飲めるようになりたいなあ、と思うのですが、どうなりますか。

 それに、また話下手になりました。最近知り合った方たちは、私の事を、なんて固い、つまらない人だろうと思っていらっしゃるでしょうね。お酒が飲めた頃の私を見せてあげたいものです。

 

 

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